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オレイズム

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 どうして夜行バスの冷房はこんなにも効きすぎるのだろう。僕はブルブル震えているのに。だいたい今何時なんだ。だいたいお前は誰なんだ。
 もう一度パーキングエリアにバスが入った。同じように運転手が発車の時刻を、多分僕だけに伝えた。僕はもう一度バスを降りた。クシャクシャになったマールボロを二本吸った。指が震えて上手く吸えない、こんなのってうんざりする。もう、本当にうんざりするんだ。僕は売店で一番安いウィスキーを買った。酒の味なんて分からないもの。僕は人よりほんの少しだけ酒を多く飲む。でもねカズミ、僕は酒がおいしいだなんて、ただの一度だって感じた事はないんだよ。そのままキャップを取って三口ぐらい飲んだ。運転手の禿げたオヤジが、もう出まっせ、はよ乗ってください、とかなんとか迷惑そうに言った。「もう出まっせ!」僕は真似した。もう出まっせ、馬鹿みたいな揩阨セ。オヤジは何か汚い言葉を吐いた。

 それからバスは、そのまま中央分離帯に突進して全員死んだ。そんなことにでもなってしまってもいいのに。でも、そんなことになったら、きっとカズミは泣くんだろうな、ユカは訳も分からず笑っているかも知れない。この汚いおっさんにもきっと子供がいて、死んでしまったらみんな赤ん坊みたいに泣くんだろう。おっさんはただ汚い顔して寝ているだけだ。それじゃあ運転手さん、安全運転でお願いします。


ささやかだけど、ホッとすること


 東京駅に着く、午前五時。夏の午前五時は深海のように濃いブルーの世界で、大阪も東京も似たようなものだ。僕は運転手に大きな切符を渡して、東京を歩いた。あてもなく東京を歩いて、ベンチに寝転がった。そのままマールボロをまた二本吸った。そしてふと考えた。はて、どうしてまた東京になんて来たんだろう。この時だ。この瞬間だ。この瞬間に僕は悟った。あぁそうか、オレはやっぱり少しオカシイんだな。だって、マトモな人間は、理由もなく大阪から東京までなんて行かない。いくら酒を飲んだって、東京までは行かない。東京はいくらなんでも遠すぎるじゃないか、僕はそのまま泣いた。僕は思う、こんなのってない、あんまりだ。グチャグチャじゃないか、ドロドロじゃないか。僕はもうほとんど、死んでいるんじゃないか。そのまま体勢を横にして、吐いた。酒にまみれた最悪の気分だった。僕はそのまま目を閉じた。

 二時間位寝た、とても感覚的な二時間だから、二時間かどうかなんて僕はしらない。起きたら自分のゲロが目の前にあって、危うく僕は自分のゲロにモライゲロしそうになった。気分は依然として重かった。でも、寝る前よりましだ。とにかく帰らないと。僕は公衆電話まで歩いた。公衆電話で店に連絡しようとして、怖くなって止めた。だって、あの店長、何を言ってくるか分かったものじゃない。仕方なくカズミに電話した。正確に言うと、掛けようとして迷って、止めて、今度は半分くらいまでボタンを押して、止めて、三度目に結局最後までボタンを押した。胸が締め付けられた。カズミが出た、もしもし。僕は切ろうか迷って、でも切ってもどうせカズミは分かるだろうから話した、オレなんだけど、昨日はごめんなさい。カズミは返す、ごめんて、あんた何に謝ってんの、何に対してすまなく思ってんの。僕はもう正直に話した。自分があまりマトモではなかった事に対して、それに対してカズミとユカに迷惑をかけた事に対して、店長にも迷惑をかけたこと、昨日は飲まないと誓ったのに飲んでしまったこと、訳も分からずに東京まで来てしまったこと、エトセトラ、エトセトラ。

 僕は泣かなかった。人に何か謝るとき、絶対に泣いちゃいけない、誰だっかか偉い人が昔言ってた。彼は人差し指を一本ピンと立てて僕に言った。だってお前が欲しいのは同情じゃなくて許しなんだろう、それじゃあ絶対に泣いちゃあいけないよ。僕もそう思う。

 カズミは黙っていた。長い間黙っていた。それは胸が張り裂けるくらいの沈黙だった。僕は受話器を持ち替えた。店に連絡いれたんか、店長にちゃんと謝ったんか、カズミは言った。僕は言う、だってもうクビだよ、ツナサラダも作れないんだから。カズミは、それでも謝りいや、あんた迷惑かけてんやろう、と言った。沈黙・・・うん、分かったよ、一応謝っておくよ、僕は返した。それから、カズミは続けた。

「それからな、これから飲んだ時はウチに掛けてこんといて、飲みそうになった時はいい、でも飲んだら、絶対に掛けてこんといて、それからな、今日帰ったら職安行きや、酔ってんねやったら明日な。あんた、もういい加減にしいや、ユカも恥ずかしいわ。何回同じ失敗してんの、ツナサラダなんて誰でも初めは作られへんわ、ましてアンタなんか、そんなにすぐに作れる訳ないやろ。あんたな、なんでも続けなあかん、続けなあかんねんで、何事もや。」

僕は黙って聞いていた。何か言おうと思ったけど、結局は黙っていた。

救いようのない人生がたくさんある。救いようのない人間がたくさんいる。だけど、同時に誰にだって、ちょっとした救いがある、それは汚いおっさんにだってある。僕にだってもちろんある。それは決して解決じゃない。決して丸く収まったりなんてしない。ただ、ほんの少し、ホッとするだけだ。それはほんのささいな事だ。ささいなことだけど、ホッとすることだ。

 僕はまた大阪行きのバスの中にいる。昼間のバスだ。ちょっと迷ったけど、ウィスキーのボトルは捨ててしまった。まったく無駄遣いばっかりしている。こんなのって、あんまりよくない。

2006/06/21(水) 19:06:09 太平寺 トラックバック:0 コメント:5
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コメント

ぽんぽん言葉が出てくる方じゃないので、20分くらいコメントに悩んでしまいました。
それでもなんかこのまま出れなったのは、
応援してますって伝えたかったから!
本当、応援してますよ!
  1. 2006/06/21(水) 21:32:58 |
  2. URL |
  3. ポチ #-
  4. [ 編集]

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  1. 2006/06/22(木) 01:04:44 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集]

大丈夫け?ぜったい自殺とかすんなよ!
  1. 2006/06/29(木) 20:28:53 |
  2. URL |
  3. メリャン #-
  4. [ 編集]

わー勘違いさせて申し訳ないけど、
これって俺が書いたんじゃないですヨ。
友達が昔に書いたのをアップしなおしたんです。
でもこの文章って全然前向きで良い話やと思うんだけどにゃー。
  1. 2006/06/29(木) 23:46:16 |
  2. URL |
  3. ヨッピー #-
  4. [ 編集]

流れるように言葉が綴られていて、読みやすい話でした。
こういうのも好きです。
  1. 2006/07/09(日) 13:25:50 |
  2. URL |
  3. ひか #f3.AbFOU
  4. [ 編集]

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